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東京地方裁判所 平成6年(ワ)20174号 判決

原告

三井海上火災保険株式会社

被告

田中勲

主文

一  被告は原告に対し、金二三六二万八七七二円及びこれに対する平成六年六月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余は被告の負担する。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、金四二七八万一〇〇〇円及びこれに対する平成六年六月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要(争いがない事実、甲一一、一二の一及び二、一三の一及び二、弁論の全趣旨)

一  本件交通事故の発生

1  事故日時 平成五年五月三日午後九時四〇分ころ

2  事故現場 東京都江戸川区南篠崎町一丁目二一番先路上

3  宮城車 第二種原動機付自転車(江戸川区ほ一三一六)

4  運転者 訴外宮城裕紀(以下「訴外宮城」という。)

5  被告車 普通乗用自動車(足立五二ほ八六一四)

運転者 被告

6  事故態様 訴外宮城が宮城車を運転して十字路交差点を直進中、被告運転の被告車が一時停止標識があるにもかかわらず、一時停止をせずに交差点に進入し、宮城車に出会い頭に衝突し、訴外宮城は死亡した。

二  責任原因

被告は、本件交差点に進入するに際しては、一時停止標識に従つて一時停止をし、進路左前方を注視して交差点内に進入すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて漫然と本件交差点に進入し、本件事故を惹起した過失があるので、民法七〇九条に基づき、訴外宮城に生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害総額 七六六一万二五三二円

1  葬儀費 一〇〇万円

2  逸失利益 五四六一万二五三二円

男子四〇歳の年齢別平均給与額四四万四〇〇〇円を一二倍し、生活費を三割控除し、六七歳まで二七年間のライプニツツ係数一四・六四三を乗じた額

3  慰謝料 二一〇〇万円

4  合計 七六六一万二五三二円

四  原告による保険金支払い

1  原告は、平成五年五月一六日、訴外宮城との間に、左記内容の自動車車両損害保険契約を締結した。

(一) 保険の目的 前記宮城車

(二) 無保険車傷害保険金額 一億円

(三) 保険期間 平成四年五月二二日から一年間

2  原告は、過失相殺による減殺は五パーセントが相当であるとし、右損害総額七六六一万二五三二円から五パーセントを減じ、さらに自賠責保険から支払われた三〇〇〇万円を控除した残額四二七八万一〇〇〇円を、平成六年六月一日、右保険契約に基づき、保険金として訴外宮城の相続人に対し支払つた。

第三争点

原告は、過失相殺による減殺は五パーセントが相当であるから、原告は、訴外宮城の被告に対する金四二七八万一〇〇〇円の損害賠償請求権を商法六二二条により代位取得したと主張するのに対し、被告は、訴外宮城の無灯火運転等の状況を考慮すると、少なくとも四〇パーセント以上の減殺がなされるべきであるから、その限度で、原告に対し支払い義務を負うに過ぎないと争つている。

第四争点に対する判断

一  争いのない事実の外、甲一ないし一〇、乙一、被告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故現場の状況

本件現場は、西瑞江方面から篠崎町方面へ向かつて走る一方通行道路(被告の進行していた道路、以下「被告走行路」という。)と京葉道路方面から篠崎街道方面へ向かつて走る一方通行道路(訴外宮城の進行していた道路、以下「宮城走行路」という。)が合流する信号機によつて交通整理の行われていない交差点である。

被告走行路は、車道の幅員が約六・二メートルで、道路西側には幅員約一・四メートルの路側帯、東側には幅員約一・七メートルの歩道が、それぞれ設けられている。被告走行路は、一方通行で、一時停止規制がなされており、最高速度は四〇キロメートル毎時に規制されている。被告走行路の本件交差点手前の一時停止標識は、オーバーハング燈火式であり、被告の進行方向からの視認は良好である。

宮城走行路は、車道の幅員が約五・四メートルで、道路北側には幅員約一・四メートルの路側帯、南側には植え込みを含み、幅員約二・六メートルの歩道が、それぞれ設けられている。宮城走行路には、一方通行で、最高速度は三〇キロメートル毎時に規制されている。

2  被告進行路から訴外宮城進行路方面の見直し等

被告走行路は、前方は直線状のため、見通しは良好であるが、左方角には芦田流通株式会社第二倉庫があり、その周辺に下方約七七センチメートルのコンクリートを含む高さ二メートルの金網の塀が設置されているため、被告走行路から宮城走行路方面の見通しは良好とは言えないが、上部が金網であるため、金網部を通しての見通しは十分に可能である。

本件交差点南西角の前記芦田流通株式会社第二倉庫の北側と東側には、それぞれ一基ずつの街路灯が設置されており、交差点付近は夜間も明るい。また、宮城走行路にも街灯が設置され、宮城走行路から本件交差点に進行してくる車両や人の視認は可能である。

本件交差点の通行量は、事故後の実況見分の際の五分間に、被告走行路は、乗用車等三台、オートバイ一台、宮城走行路は、タクシー等五台、オートバイ一台の通行があつただけで、通行量は多いとはいえない。

3  衝突の状況

被告は、時速約四〇キロメートルの速度で被告走行路を本件交差点に向かつて直進中、交差点入口の停止線の手前約九・七五メートルの地点で一旦減速し、同約四・六五メートルの地点で左方を確認したが、十分に注視しなかつたため、左方から進行してくる宮城車に気づかず、交差点内に進行してくる車両はないと軽信し、一時停止標識を認識したものの、一時停止標識に従つて停止することなく、逆に加速して時速約四〇キロメートルの速度で本件交差点に進入したところ、交差点中央付近にいたつて、左直進に進行してきていた宮城車に初めて気づき、急制動の措置を取つたが及ばず、自車左前部付近に宮城車を衝突させ、被告車は、左前方の路側帯上で電柱に衝突して停止した。

宮城車の進行状況は、目撃者もおらず、証拠上明確ではない。宮城車は、被告車と衝突後、左後方に跳ね飛ばされ、訴外宮城は被告車が停止した地点の側方に転倒した。また宮城車は、前輪泥除けが破損し、前輪フオークが曲損、前照灯カバーガラスが破損していた。宮城車の前照灯は故障しておらず、事故直後の実況見分の際には前照灯のスイツチはOFF(切)の状態であつた。さらに交差点付近の畑地内から訴外宮城のヘルメツトが発見されている。

4  宮城車の前照灯の点灯の有無

被告は、停止線の手前約四・六五メートルの地点で不十分ながらも一旦左方を確認したが、宮城走行路から進行してくる車両の前照灯は確認していないこと、事故直後の実況見分の際、宮城車の前照灯のスイツチはOFF(切)の状態であつたことから見れば、故意か否かはともかくとして、訴外宮城が前照灯を点灯せずに進行していたと認められる。

5  宮城車の速度

宮城車の速度を客観的に確定するに足りる証拠はない。被告は、訴外宮城の速度は時速約八〇キロメートルだつたと主張するが、元来、推測に過ぎない上、その内容も自らが左方を確認した際に進行してくる車両が確認できなかつたので、自らが見通せなかつた遠距離から短時間に訴外宮城が進行してきたものであり、時速約八〇キロメートルで走行していたと思うというものであり、自らの左方不注視を全く考慮しないまま一方的に推測しているに過ぎないのであつて、これによつて、訴外宮城が時速約八〇キロメートルで走行していたと到底認定できるものではない。また訴外宮城のヘルメツトが交差点付近の畑地内から発見されているが、訴外宮城が低速で進行していても、衝突の際の衝撃で畑地内まで飛びえないものではなく、ヘルメツトが畑地内までどのようにして飛ばされたか不明であるため、この事実をしても、訴外宮城が時速約八〇キロメートル、若しくはそれに近い高速で走行していたとは認定できない。

他に、訴外宮城が時速約八〇キロメートル等、高速で交差点内に進入したと認定するに足りる証拠はないので、訴外宮城は、過失相殺として斟酌すべき高速で進行していたとは認定できない。

二  過失割合の検討

以上の事実によれば、本件交差点は、被告進行路から見て、宮城進行路側の見通しが十分ではないのであるから、被告は、本件交差点手前で一時停止をした上、宮城走行路方向を厳に注視し、左方からの進行車両等の有無を確認した上で進行しなければならないにもかかわらず、交差点手前で左方を一暼しただけで進行車両はないものと、軽信し、本件交差点手前で一時停止をすることなく、左方の注視を欠いたまま時速約四〇キロメートルの速度で本件交差点内に進行したため、衝突直前まで全く訴外宮城を発見しないまま本件事故を惹起したのであつて、被告の過失は重大である。

他方、訴外宮城にも、街灯があつて視認が可能であるにしても、午後九時四〇分ころという夜間に、通行量も多くはない道路で、前照灯を点灯せずに自動二輪車を進行させたという重大な過失が認められ、これが原因で被告が訴外宮城の発見が困難であつた可能性も否定できない。

これらを総合考慮すると、本件における過失割合は、訴外宮城三〇パーセント、被告七〇パーセントと解するのが相当である。

三  求償額

以上の次第で、本件において、原告が被告に対して請求しうる金額は、本件事故によつて訴外宮城が被つた損害額七六六一万二五三二円から三〇パーセントを減殺し、自賠責保険から損害のてん補を受けた三〇〇〇万円を控除した二三六二万八七七二円と認められる。

第五結論

以上の次第で、原店の本訴請求は、被告に対し、金二三六二万八七七二円及びこれに対する平成六年六月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 堺充廣)

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